新嘗祭の儀式

新嘗祭3日前には「僧尼の服を着たもの、穢れたもの入るべからず」の立て札が御所6門の外に立てられる。11月第2卯の日新嘗祭御当日、午後4時(現代時制に修正)に揃いの狩衣を着て御所へ出向く。

関白等参役は、束帯を着して、午後6時過ぎに御庭廻りの月華門外の回廊の階下に円座を作って座る。天皇は南殿より出御され、御鳳輦は松明を灯した供奉の列が続く。天皇が鳳輦を降りられると、管弦を持った女官上臈、次位の中臈が、五ッ衣の緋袴で御供をし、 新嘉殿(新嘉殿をクリックし表示される絵図は、国立国会図書館蔵、寛延3年、内裏絵図) の幕内に入られる。次いで、御祭礼があって、一度御殿に内々に帰御される。

卯の日、新嘗祭当日夜半を過ぎて、再度天皇が御成りになり、新嘉殿で御湯を召される。出御の際は、我々は御先に廻り、御湯殿の向かいの庭上に詰める。階上には関白殿が詰められ、それから暁の御祭礼があり、終わって還御される。御通りになるに従って管弦が奏ぜられる。雨模様であれば手傘を持って御供をし、御附きは段上の御庇下で座る。暁午前4時頃終わる。

翌日午後4時に豊明節会参列のものが揃う。新嘗祭参役の公卿は、 紫宸殿で御饗応がある。出御の際は、我々は清涼殿庭上に廻る。狩衣で渡御されると皆は平伏してから、紫宸殿西回廊へ廻って座る。庭上には橘の木、桜の木が植えてある。次いで、承明門の内側、左右で衛士が庭に火を焚く。

階下の左右では近衛が陣列を作る。紫宸殿の東の階で女官が付いて摂家の職事、即ち蔵人の頭にお召しがあったことを告げる。北の廊下の階下でこれを受けられ、桜の根本から静かに進まれ、庭上を四角に歩行され、曲がり角では裾(きょ)をたたみ、如何にも静かに、御正面の標(しるし)の杭のあるところに来て、三拝をされ、御盃頂戴が終わって元の通り静かに戻られ、東の階から上殿される、この間はよほど間を取ることが大切である。

それから職事が声高く長く引いて「開門つかまつれ」と呼ばわる。承明門(じょうめいもん)を開くと外に大中少納言の陣列が見える。職事が声高に長く引いて「いしはおんのるか」と呼ばわる。南の階下から女官が2人でる。五ッ衣に沓をはき、承明門の内側で左右にある床几に座る。それから大中少納言召し出しを告げる。

一卿ずつ静かに入る。標の杭の本に来て三拝をする。次いで、御盃頂戴があって、東の階から上殿する。紫宸殿には天皇が高御座に御座される。御後のものが歩いて障子を開かれ、この内に宮女が告げられる。饗応の堂上は床几に着かれ、 御膳は朱の大盤が3机、耳附きの土器、箸、匙、小刀が朱塗りの木皿に一種ずつ載せてあって、頂戴する。

初めて酒が出され舞姫がでて舞う。音楽は、2度目の酒、3度目の酒の時も同じである。配膳は五位の年少の召使いが行った。終わって宣命、天皇の御言葉が読み上げられ、それで全て終わり各々は階下へ引き上げる。月華門の内で禄(頂き物)を頂戴して退出する。それから松明(たいまつ)が用いられ、凡そ午前2時頃に終わる。

次いで、伺候の間で御機嫌伺いをし、御式が終わったことを表使を以て恐悦と申し上げると、先役佐橋長門守佳富殿より返答があり退出する。紫宸殿に高く掛け払った殿上に、掛け燈火の火ばかりが寒風の中でも吹き消えもしないで燃えている。回廊外の外陣でも寒夜のためそれぞれ焚き火多く、火の元の心遣いが気になった。

梶野土佐守良材の原文(国立国会図書館蔵)

新嘗祭には三日前に尼僧服穢のもの入へからさる立札六門外へ出る御當日七時狩衣にて出る参役は束帯六時過御庭廻り月華門外回廊段下円座に着す南殿より渡御御鳳輦松明にて供奉管弦内侍上藹中藹五ッ衣緋袴にて御供新嘉殿幕内へ入らせられ御祭ありて一度御殿内を内々帰御

尚又夜半過て再度成らせられ新嘉殿にて御湯を召され出御の節御先へ廻り御湯殿の向かひ庭上に詰める階上には関白殿詰らる夫より暁の御祭あり畢て還御成らせられし通り管弦雨気の御まらけになれる手傘にて供奉御附は段上御庇下に座す

暁七時半時の頃済よく日夜豊明節会七時揃にて新嘗祭参役の公卿紫宸殿にて御饗応出御の節清涼殿庭上へ廻る狩衣渡御平伏して紫宸殿西回廊へ廻り座す庭上橘の本桜の本承明門内左右にて庭火衛士之を焚く階下左右近衛陣列紫宸殿東階へ内侍附て摂家の職事へ召を告る

北の廊下階下にて是を受られ桜の根本よりねりて出られ庭上を四角に歩行曲り角にては下に居て裾をたたみいかにも静にして御正面標の杭ある所に至らせ三拝御盃頂戴畢りて元の通りねりて戻られ東階より上殿此間よほと隙とる事也

夫より職事声高く永く引きて開門仕れと呼る承明門を開く外に大中小の納言陣列それより職事声高に永く引いていしはおんのるかと呼る南の階下より婦人両人出る五ッ衣沓承明門内左右へ床机につく夫より大中少納言召出しを告る

一卿づつねりにて入標の杭の本に至り三拝御盃頂戴ありて東階より上殿紫宸殿に高御座に御座御後の方通ひ障子をまらけられ此の内に宮女詰らる饗応の堂上は床机につかれ朱大盤三机耳土器箸匕小刀朱の塗木皿へ一種つつ盛りありて頂戴初献舞姫出てまう音楽二献三献とも同し配膳は五位の内豎是を役し畢て宣命をよみ上け相済て各々階下に引かれ月華門の内にて禄頂戴ありて退出

夫より各松明を用ひらる凡夜八時の頃済也伺公の間にて御機嫌伺御式済の恐悦表使を以申上長橋殿より返答有て退出紫宸殿高くあけ払ひし殿上に掛燈械の燈火ばかり寒風ありても吹きえもせす廻廊外の下陣にては寒夜ゆへ夫々焚火多く火の元心遣ひなることなり